同一労働同一賃金の対策は急務
相続人以外の者による貢献の考慮
2020年10月13日と15日、非正規社員の待遇格差訴訟で最高裁は明暗の分かれる判断を示しました。13日には、非正規社員への退職金と賞与の不支給について、正社員との間の職務の差を理由として、不合理ではないと判断しました。15日には、手当や休暇の格差について、不合理と判断しました。いずれも、改正前の労働契約法20条を前提としていますが、格差の内容で判断が分かれているともいえます。「パートタイム・有期労働契約法」では、同一労働同一賃金が求められますので、企業側の対応が急務となります。
一方で確定申告の押印を廃止する方向で検討しているそうです。
私文書の押印は民事訴訟法にあります。文書が正しく作成された文書かどうかでは「二段の推定」が働くとされています。
民事訴訟法228条4項 私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
押印だけでは誰が押印したかわからないですが、押印があれば本人の意思で押印した推定をするという判例があります。この推定が加わって、二段の推定が成立するわけです。文書成立を否定する側に立証責任が移ることになります。
こんなことも含めて押印廃止は立法されると思います。
今回は、相続にまつわる問題の中で、相続人以外の者による貢献の考慮について考えてみようと思います。
目次
相続人以外の者による貢献の考慮
相続人以外の者が、被相続人の世話をしたりして貢献することはよくあります。
例えば、被相続人が農家で、各相続人が仕事をもっていて、孫の配偶者が農家を手伝ったり、介護をしたりというような場合です。
この貢献を、相続のときにどう考慮するのかという問題について、民法は1050条に規定しています。
第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から六箇月を経過したとき、又は相続開始の時から一年を経過したときは、この限りでない。
3 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
4 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
5 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第九百条から第九百二条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。
寄与分ではなく、特別寄与者の特別寄与料
相続人の貢献に対する配慮は「寄与分」といいます。貢献した相続人は「寄与分」を主張し、遺産分割で反映されます。
一方で、相続人の子や相続人の配偶者が寄与した場合、相続人ではありませんので、「相続人の補助者」という構成にして、寄与分を配慮した遺産分割を認める判例があり救済していました。
これに対して、民法改正でこの特別寄与の規定が設けられました。
相続人以外の者のうち親族の場合の貢献者は、特別寄与者といい、その金額を特別寄与料といいます。
特別寄与料の請求
寄与分が遺産分割で検討されるのに対して、特別寄与料は相続人に対して請求する形になります。協議が整わないときは、家庭裁判所が決定してくれます。
実務的には「特別の寄与に関する処分調停申立書」になります。
特別寄与者
特別寄与者
特別寄与者は親族に限定されます。
親族の定義は下記のとおりです。
① 6親等内の血族(はとこ等まで)
② 配偶者
③ 3親等内の姻族(ひ孫の配偶者、甥姪の配偶者、配偶者の甥姪等まで)
②は常に相続人です。①と③の相続人以外の者が対象者です。
特別寄与
特別寄与行為の態様は下記に限定されます。
「無償で療養看護その他の労務の提供をしたこと」
寄与分は「療養看護型」「労務提供型」「扶養型」「財産出資型」がありましたが、特別寄与では、「財産出資型」が含まれません。
この際に「寄与分」でいうところの「特別の寄与」(民法904の2①)とは「特別の」の意味が異なるとされています。相続人ではないからということです。
特別寄与料
寄与分の算定方法が目安となります。
療養看護型の場合
介護報酬日当×看護の日数×裁量割合
特別寄与者でない者の貢献
特別寄与は親族に限定されるので、親族以外の者が、貢献した場合は考慮されるでしょうか?内縁の配偶者などです。
民法の一般原則で、委託の費用償還、事務管理の有益費償還、不当利得返還などが考えられます。
一方で、相続人の補助者という構成も考えられます。
この考え方は、民法1050条ができたあとでも必要ですね。
まずはお問合せください
各企業で同一労働同一賃金の対策が検討されている中で、最高裁は明暗の分かれる判断を示しました。いよいよ対策が急務です。その中で相続人以外の者による貢献の考慮の概要がおわかりいただけたと思います。こちらも新しい制度ですので、これから実務に関する運用事例がでるかもしれません。
いずれにしましても、不安な状況が続くなかで準備が欠かせないようです。
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